認知神経リハビリテーションでは、身体とその運動は、精神と切り離さずに研究されるべきであるし、治療されるべきだと考えている。つまり身体と精神からなる相互作用ユニットを回復し、患者が現実世界との相互作用を行いながら情報を構築できるようにしていかなければならない。
身体とその運動は、精神の一部である。人間がある一定の方法で感じ、思考し、判断し、心を動かされるのは、人間の身体がこのように作られているからである。こうした身体があるから、そのように感じ、考え、心を動かすのである。
したがって、問題に即したアプローチ、患者のそれぞれの問題に即したアプローチをとることが必要である。感じる能力、学習する能力、感情、未来の自分を表象する能力を考慮したアプローチが必要だ。つまり物理的な手段だけを活用してきた従来のリハビリテーション治療とは異なるアプローチが必要なのだ。
また最大限の回復を達成するためには、今までとは異なる「道具立て」も必要になる。認知神経リハビリテーションでは、関節運動(他動・自動)、筋力、反射などに準拠したリハビリテーション治療から抜け出さなければならないと考えている。訓練は「問題」として提示されなければならない。身体-精神の相互作用ユニットに提示される「問題」、認知過程を使った心的作業を活性化させて解決するべき「問題」だ。そこでは、未来を予測する機構、知覚仮説、運動イメージ、表象といったものを使っていくことが必要とされる。
認知神経リハビリテーションがリハビリテーション治療の基本として捉えている視点とは、身体-精神からなる相互作用ユニットを、広い意味での情報の受容表面として捉えていこうとするところにある。治療実践で考えると、世界との相互作用を行う中で有用な情報を構築していく機能の回復を目指していくことが大切なのだ。
したがって訓練は、患者に一連の情報の構築を要求していくべく構成されたものでなければならない。こうした心的作業やプロセスを活性化するためには、いくつもの脳領域(中枢神経系)の貢献が必要となる。リハビリテーション専門家(セラピスト)は、それらが回復にとって有意味なものになるように、あらかじめどのような中枢神経系を働かせることが必要になるのかを予測し、計画しておかなければならない。
こうした「精神を考慮したリハビリテーション治療」を認知神経リハビリテーションと呼ぶ。
カルロ・ペルフェッティ
出典:認知神経リハビリテーション学会ホームページ